まとめ

ケイパビリティとは~アパレルの事例・ポジショニング・フレームワーク等~

2020/3/25

会社のチーム

マーケティングの用語の中でも、特に本質的な内容のケイパビリティ。意味を知らない人はもちろん、知っている人でも当たり前な内容なので人に説明しにくい、と感じることも多いかと思います。

この記事では、ケイパビリティを理論的に解説しつつ、なぜ一見当たり前のケイパビリティという発想が必要なのかを説明します。たとえばハイパーネットザッポスの事例を比較すると、必要性がよくわかるでしょう

ケイパビリティという考え方は個人の生き方にもそのまま通じます。ケイパビリティの理論で有名なノーベル賞学者のセンが哲学者だったことは偶然ではありません。

サッカーの長谷部誠選手も、際立った才能はなくても人格を核とした総合力で第一線に立った「個人のケイパビリティ」の成功例です。この記事を読んでいただくことで、

  • ケイパビリティの意味や理論
  • アパレル業界での事例
  • いい仕事人の条件のヒント

を掴んでいただけたら幸いです。

ケイパビリティとは

チーム

まずケイパビリティの概要をまとめると、下のとおりです。

意味企業の総合力
辞書の定義企業が全体としてもつ組織的な能力
わかりやすく差別化など小手先ではない総合的な実力
具体例チームワーク・財務基盤・開発から販売まで全部門の強さ
対義語ポジショニング(差別化)
英語才能・能力の意味(ケイパ=キャパ)

それぞれ詳しく説明していきます。

意味:企業の総合力

ケイパビリティとは企業の総合力のことです。主に下のような要素で成り立ちます。

  • 人材
  • 技術力
  • 保有設備
  • 資金力
  • 社会的信用
  • 歴史

要は「何でもあり」で、個人の能力でいうなら通信簿に似ています。ケイパビリティの優れた企業は「オール5に近い」ものです。

上の要素の中で、たとえば「技術力」だけでケイパビリティを考えることもあります。その場合「技術のケイパビリティ」を構成する要素は、下のものです。

  • スピード
  • 高品質
  • 低コスト

企業全体で見るにしても「技術」だけで見るにしても、必要な要素が全てそろって総合的に強いことが、ケイパビリティの高い状態です。

(補足:歴史が短い企業でケイパビリティの高い企業もあります。そこは「急速に成長している流れ」が歴史面での価値を持ちます)

辞書の定義:企業が全体としてもつ組織的な能力

会社のチーム

ケイパビリティは、辞書では以下のように定義されています。

企業が全体としてもつ組織的な能力、あるいはその企業に固有の組織的な強みのことです。
ケイパビリティー | コトバンク

上の言葉を簡単にいうと「企業の総合力」ということです。

なお、ケイパビリティには経営学とは別に「経済学」の用語もあります。そちらは下の段落で詳しく解説します。

アマルティア・セン「潜在能力アプローチ」とは

わかりやすく:小手先の差別化ではない総合的な実力

社長失格
出典:社長失格 | Amazon.co.jp

「総合力」の意味は、逆の要素を対比するとわかりやすいでしょう。逆の要素は「小手先の差別化」です。

たとえば、インターネットの黎明期にハイパーネットという日本のベンチャー企業が存在しました。ビル・ゲイツも買収のために面会に訪れるほど、世界的に注目された企業です。

ハイパーネットは典型的な差別化戦略で急成長しました。具体的には、下のようなアイディアを出したのです。

  • 当時、インターネットを見るには高い電話料金がかかった
  • ハイパーネットの技術は、これを無料にするものだった
  • ブラウザを立ち上げるとき、広告が表示される
  • その広告料を通信費の代わりにする

というものです。これは当時画期的で、創業者の板倉雄一郎氏は「ニュービジネス大賞」や「通商産業大臣賞」などの賞を総なめにしました。

参考板倉雄一郎 | Wikipedia

しかし、これは「特許に触れない形で大手が同じことをすれば模倣できる」ものだったのです。板倉氏の大ベストセラー『社長失格』の中でも、当時三井住友銀行の取締役だった國重惇史氏が「もしマイクロソフトが同じことをやったらどうなると思う?」と、板倉氏に問いかける場面があります。

(板倉氏によれば、一番の大口投資家だった三井住友銀行が、この時から「何かに気づいた」ようにハイパーネットに対して距離を置くようになったそうです)

ハイパーネットは「差別化」で成功したのですが、それは「アイディア一発勝負」であり、「誰も真似できない本当の武器」ではなかったのです。

一方、資金力や世界的なネットワークがあり、社会的信用も絶大なマイクロソフトには「ケイパビリティ」があったのです。上記の國重氏の問いかけは、まさに「ケイパビリティが差別化に勝利する」典型例だったといえます。

ハイパーネットはゲイツとの面会から2年後に、巨額の負債を抱えて倒産しました。この劇的な倒産を板倉氏本人がリアルに描写し、90年代を代表するビジネス本のベストセラーとなったのが、先に画像で紹介した『社長失格』です。

具体例:チームワーク・財務基盤・開発から販売まで全部門の強さ

会議

ケイパビリティを形作る要素の具体例は、下のようなものです。

  • チームワーク
  • 財務基盤
  • 開発から販売まで全部門の強さ

たとえば財務基盤ですが、有名な松下幸之助の「ダム式経営」がわかりやすい例です。

ダム式経営とは?

松下幸之助氏
出典:松下幸之助 | Wikipedia

ダム式経営とは「人・モノ・金に余裕を持った経営」です。

  • ダムは、普段水をたっぷり貯めている
  • それを、水不足のときに出す
  • だから水不足にならない
  • そういう経営を目指そう

というものです。「当たり前だ」と思う人も多いでしょう。「そんなことは小学生でも言える」と思うかもしれません。

実際、この理論を聞いたとき、その場にいた多くの経営者たちが失望し、失笑したのは有名な話です。

稲盛和夫氏(京セラ・JAL)の証言

稲盛和夫氏
出典:稲盛和夫オフィシャルサイト

京セラの経営やJALの再建で有名な稲盛和夫氏。大ベストセラーになった『生き方』の39ページでは、その時の様子が証言されています。

「ダム式経営ができれば、たしかに理想です。しかし現実にはそれができない。どうしたらそれができるのか、その方法を教えてくれないことには話にならないじゃないですか」

これに対し、松下さんはその温和な顔に苦笑を浮かべて、しばらくだまっておられました。それからポツリと「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけども、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ」とつぶやかれたのです。今度は会場に失笑が広がりました。答えになったとも思えない松下さんの言葉に、ほとんどの人は失望したようでした。

ケイパビリティは「当たり前の理論」

上の段落のやり取りにはケイパビリティの本質があります。ケイパビリティは「それを実現できたら苦労しない」という「当たり前の理論」なのです。

  • 総合的な強さが大事なのはわかっている
  • しかし、それがすぐにできないから苦労している

というのが、多くの経営者・管理職の方の本音でしょう。だからこそ、上のやり取りで多くの経営者が松下氏に「失望」したのです。

しかし、稲盛氏は逆に松下氏の言葉に「電流が走るような衝撃」を受けたそうです。松下氏の言葉が「ケイパビリティそのもの」と感じたからでしょう。


ちなみに、マーケティング用語は重要なものほど「当たり前」のことを言っています。近年注目されている「マーチャンダイジング」も同じです。

消費者の必要なものを、必要な時に、必要な量だけ届けるという「それができたら苦労しない」ということを目指すものです。この理想を実現した企業の一つがミスミです。

(マーチャンダイジングについては下の記事で詳しく解説しています)

対義語:ポジショニング(差別化)

ケイパビリティの対義語はポジショニング(差別化)です。これは「わかりやすく」の段落でもハイパーネットの例で解説しました。

より詳しい違いは右の段落で説明します。⇒ケイパビリティとポジショニングの違い

英語:才能・能力の意味(ケイパ=キャパ)

ケイパビリティは英語で「Capabilities」と書きます。意味は能力・才能・可能性・将来性です。

参考ケーパビリティー | Weblio辞書

日本語でもキャパ(キャパシティ)という言葉は一般的になりました。CapacityとCapabilitiesは、どちらも「Capa」が共通しています。

このCapaの部分に可能などの意味があります。capacityにも「才能・能力」などの意味があります。

capacity | Weblio英和辞典

アマルティア・セン「潜在能力アプローチ」とは

アマルティア・セン
出典:アマルティア・セン | Wikipedia

ケイパビリティは、経営でなく「経済」の方で別の用語があります。ノーベル経済学賞を受賞したセン(写真)が提唱したものです。

彼の理論は「潜在能力アプローチ」といい、ここではケイパビリティは「潜在能力」という意味になります。具体的には下のような要素です。

  • 栄養状態が良い
  • 教育を受けている
  • 社会生活に参加できる

まだ多くの要素がありますが「企業のケイパビリティに似た部分」があります。「当たり前だけど重要なこと」の集合が、ケイパビリティということです。

個人の成功例:サッカーの長谷部誠選手

心を整える

個人でケイパビリティが高い人の代表例が、サッカーの長谷部誠選手です。100万部を突破したベストセラー『心を整える』の紹介文に、それがよく現れています。

長谷部誠はサッカー選手としては、特に特徴がある選手ではない。試合を決定するフリーキックが蹴れるわけではないし、突出したテクニックを持っているわけではない。だが、彼はあらゆる指揮官に重宝される日本代表の中心人物だ。
心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣 | Amazon

同書を読むと、長谷部選手が「当たり前のこと」を子供の頃から愚直に守り続けてきたことがわかります。イチローも下のように同じことを言っています。

「特別なことをするために、特別なことをするのではない。特別なことをするために、普段通りの当たり前のことをする」
「鉄人」イチロー・世界記録への挑戦 | プレジデント・オンライン

ケイパビリティをことわざでいうなら「ローマは一日にしてならず」と言えるでしょう(当時のローマも、総合力で最強の帝国でした)。

アパレル業界のケイパビリティ・4つの成功&活用事例

アパレルスタッフの女性

アパレル業界の方であれば、業界の中でのケイパビリティの成功事例・活用事例に特に興味があるでしょう。ここでは、下の4つの事例を紹介します。

ザッポス世界で奇跡と称される徹底した顧客重視
ZARAデザインから流通まで全部門を強化
三菱商事・MFCケイパビリティ考察のソリューションを提供
韓国アパレル韓流との相乗効果で世界にPR

以下、それぞれの事例の紹介です。

ザッポス:世界で奇跡と称される徹底した顧客重視

ザッポスの奇跡出典:ザッポスの奇跡~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~

アパレル業界のケイパビリティの代表例はザッポスの成功です。ケイパビリティのレベルはVRIOという4つの指標で測りますが、その4つを下のように非常に高いレベルで満たしています。

V:経済価値年商1200億円、アマゾンが800億円で買収
R:希少性コールセンタースタッフが全権限を持つ
I:模倣困難性買収したアマゾンすら真似できていない
O:組織力ホラクラシー(上司不在)を実践

アパレル業界ではすでにご存知の方が多いでしょうが、あらためてザッポスが評価されている理由を説明します。

ザッポスの何がすごいのか

ザッポスはコールセンターの「神対応」で世界的に有名になった会社です。具体的には下のようなルールが設定されています。

  • コールセンターのスタッフには100%の権限がある
  • 顧客を感動させるためなら、何をしてもいい
  • 1回の電話にどれだけ時間を使ってもいい(最長記録は7時間)
  • 自社に在庫がなければ競合他社のサイトを3社以上調べ、顧客に教える
  • 花束やメッセージカード、クーポンなども自由に贈っていい

とにかく「ひたすら顧客を喜ばせることだけを考える」というのがザッポスのやり方です。調べるほど「何でこれほどのサービスをしていて事業が成り立つのか」と、誰もが不思議に思うでしょう。

実際、買収したアマゾンすら真似できておらず、模倣困難性(真似できない度合い)は極めて高いといえます。AOLなどの大手メディアも、CEOのトニー・シェイをゲイツ、ジョブズ、バフェットなどと並べて評価しているほどです。

参考ゲイツ、バフェット、ジョブズと比べられる男 ザッポスの若きCEOトニー・シェイの正体 | ダイヤモンド・オンライン

ケイパビリティを極めた企業は「とにかく凄すぎて真似ができない」という状態になるのですが、ザッポスがその典型といえるでしょう。

ZARA

ZARA出典:ZARA

ZARAは「売れ筋のファッション商品を、製造から陳列まで10~15日で行う」というスピードで、世界を席巻しました。一見このスピードは「差別化」に見えます。

しかし、このスピードを実現したのはケイパビリティです。具体的には下のような要素です。

  • 自社デザイナーを多数抱えていた
  • 流通網を整備していた
  • 店舗スタッフが売れ筋を敏感にキャッチした
  • あらゆる情報共有がスピーディーに行われる態勢だった

一見「派手な技」に見えるものも、実は「総合的な根っこがあって実現できる」ということです。

参考戦略を日常業務に落とし込む~Zara、JCI、ファイザー、クアルコム~

なお、ケイパビリティの中でも特に「流通」の面で優れていたZARAは、サプライチェーンマネジメント(SCM)の成功例として研究されています。SCMについては下の記事で詳しくまとめています。

三菱商事ファッション株式会社

三菱商事ファッション株式会社出典:マーケティング研究所 | 三菱商事ファッション株式会社

これは成功事例というよりも、ケイパビリティの重要性がわかる情報です。三菱商事ファッションのマーケティング研究所では、リソースの棚卸を行い、ケイパビリティを考察することを、重要なサービスの一つとしています。

ここからわかることは、自社のケイパビリティは意外とわからないということです。「自分のことは自分が一番わからない」とはよく言われますが、企業経営でも同じことがいえます。

韓国アパレル:韓流との相乗効果&IT世界にPR

韓国のアパレルには、中国のアパレルのように「わかりやすい武器」がありませんでした(中国の武器は安さです)。

そのため、彼らは下の2つの工夫によって、韓国アパレルを世界にPRしていったのです。

  • 韓流のドラマ・映画・音楽のイメージと一体化させる
  • IT技術を駆使する(Webによるアピール)

たとえば少女時代やKARAを想像すると、彼女たちが韓国ファッションを世界に広めることに貢献したことを実感できるでしょう。こうしたイメージ戦略とIT技術を「フル活用」したということです。

参考競争戦略におけるケイパビリティー・マネジメント | 日本大学大学院

ケイパビリティとポジショニングの5つの違い

ポジショニングの図解

ケイパビリティとポジショニングの違いをまとめると、主に下の5つとなります。

違いポジショニングケイパビリティ
重視する内外環境外部環境内部環境
経営に影響する割合15%45%
結果が出る時期短期も可長期のみ
部分的か総合的か部分的総合的
学派・提唱者ポーターバーニー

それぞれ詳しく解説していきます。

外部・内部、どちらの環境を重視するか

会議

ポジショニングは外部環境、ケイパビリティは内部環境を重視します(簡単に分類すると)。

ポジショニングは業界内での「場所取り」を考えるものです。「ニッチなポジションで勝負する」というのが典型例です。

そのため、自然と競合他社などの外部環境を意識します。

一方のケイパビリティは、下記のように「自社を全体的に強くする」ことを考えます。

  • 開発から販売まで全経路の強化
  • 営業・企画・人事・総務など全部門の強化

わかりやすく言うと「理想の会社を目指す」と言ってもいいでしょう。作業によっては外部に目を向ける部分もありますが、ポジショニングと比べると内部に目を向ける割合が圧倒的に高くなります。

経営に影響する割合(経営学上のパーセンテージ)

ポジショニング15%
ケイパビリティ45%
不確定要素40%

上記の割合は、経営学者のリチャード・ルメルトが、1991年の論文で示したものです。ケイパビリティがポジショニングの3倍重要ということです。

参考ポーターVSバーニー論争のその後を考える(2ページ目)

ちなみに、40%の不確定要素とはPure Luck(純粋な運)のことです。ゴルゴ13でも、デューク東郷が「プロとして成功する条件」で、同じことを言っています(年代はゴルゴが先です)。

ゴルゴ13
(C)さいとう・プロダクション

結果が短期で出るか、長期で出るか

ポジショニング短期で結果が出やすい
ケイパビリティ長期でなければ結果が出ない

ポジショニングは短期で結果が出ることがしばしばあります。直近でわかりやすい例は「いきなりステーキ」です。

同社は「立ち食いのステーキ」という差別化によって、一時期は飛ぶ鳥を落とす勢いでした。アメリカのNASDAQ市場にも、日本企業として5年4カ月ぶりに上場していたほどです。

参考「いきなり!ステーキ」ナスダック上場廃止へ「合理性が低下した」| ライブドアニュース

しかし、企業としての総合力(ケイパビリティ)が拡大スピードに追いついていないことを多方面で指摘され、現在では方針の転換を図っています。

上記のようにポジショニングによって短期で成功する例は多くあります。しかし、ケイパビリティを短期で高めることはできません。資金力については、強力なスポンサーがバックにつけば、一夜で総合力を高めることもできるでしょう。

しかし、企業風土の育成については最低でも10年単位で考える必要があります。たとえば有名なソニーの設立当時のスローガン「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」に、膨大な時間がかかることは明らかです。

参考設立趣意書 | ソニー

部分的か、総合的か

プレゼン

ポジショニング部分的(主に商品・サービスの個性)
ケイパビリティ総合的(その企業の活動のすべてで勝負)

ポジショニングは部分的な強みで、ケイパビリティは総合的な強みです。部分は「狭い領域」のため短期間で強化でき、代わりに崩れやすくなります。

総合は「広い領域」のため短期間では強化できませんが、代わりに崩れにくいものです。

学派・提唱者は誰か

ポジショニングマイケル・ポーター
ケイパビリティジェイ・B・バーニー

マイケル・ポーターは著書『競争の戦略』で知られるアメリカの経営学者です。同書は経営戦略論の古典として、今でも多くの経営者・経営学者に愛読されています。

参考マイケル・ポーター | Wikipedia

ジェイ・B・バーニーは『企業戦略論』などの世界的ベストセラーを著した、アメリカの経営学者です。ケイパビリティの理論に加え、VRIO分析などのフレームワークも提唱しました。

ジェイ・B・バーニー | Wikipedia

2人の学派の意見の違いは「ポーターVSバーニー論争」と呼ばれます。この論争により、世界の経営戦略論は大幅に飛躍しました。

参考ポーターVSバーニー論争のその後を考える | ハーバード・ビジネスレビュー

ケイパビリティを評価するVRIOフレームワークとは?

VRIO

この会社はどれほどケイパビリティが優れているか―。それを評価するフレームワーク(指標)がVRIOです。VRIOの意味は下のとおりです。

V:Value経済価値
R:Rarity希少性
I:Imitability模倣困難性
O:Organization組織力

それぞれ詳しく説明していきます。

V:Value(経済価値)

「経済的に価値のあることをやっているか」という評価です。たとえば、後述の「希少性」を満たしていても、伝統工芸は一般的に経済価値がありません。

  • 文化的価値はある
  • 社会的価値もある
  • しかし、経済的価値はない

という場合は、VRIOから外れます。伝統工芸や前衛アート、ボランティア活動が典型的なものです(もちろん、これらには人間的な価値があります)。

R:Rarity(希少性)

町工場

他社にない「レアな経営資源」です。わかりやすい例は「高い技術力」です。

これは、次で説明する「模倣困難性」に似ていると感じるかもしれません。しかし、高い技術力でも模倣できてしまうものがあります。

発明者が誰かわからない「カラオケ」

カラオケは日本で発明され、世界に広まった技術です。これを最初に発明した人は根岸重一氏で、同時期に有名な井上大佑氏もカラオケを発明していました。

双方とも特許を取っておらず、さらに続いた2人の改良者(日本人)も特許を取らなかったため、カラオケは急速に世界に広まりました。「日本文化を広めた」という意味では特許を取らなかったことが良かったともいえるでしょう。

ただし、希少性はあっても模倣困難性はゼロだった好例といえます。これも先のValueと同様「経済的価値はなかったが、人間的価値はあった」ということです。

【参考】カラオケ秘史 | Amazon.co.jp

I:Imitability(模倣困難性)

「真似の難しさ」です。具体的には下の4つの性質を満たすほど、他社が模倣をしにくくなります。

歴史性その企業の歴史の上に成り立つ強みである
秘匿性成功の仕組みが外部からわからずブラックボックス化されている
複雑性社会・政治・国内資源の有無などの複雑な要素が絡んでいる
権利性特許などの知的財産権で保護されている

他社に模倣できない特徴は、ただの差別化(ポジショニング)ではなく「その企業全体から生まれる強み」といえます。

O:Organization(組織力)

「いい組織である」ことは、ケイパビリティの中でも特にわかりやすい要素です(個別のアイディアや差別化で勝負することの対極にあるため)。

「いい組織」を具体的に説明すると、下の要素を満たすほど当てはまります。

  • 優秀でモチベーションの高い人材
  • 社員にも社会にも評価される企業文化
  • 効率的な組織体制

特に企業文化で世界的に有名になった会社の一つがザッポスです。

参考戦略フレームワークを理解する「内部資源論(RBV=Resource Based View)」の登場と限界

ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーとは

会議

ケイパビリティの関連用語として「ケイパビリティ・ベースド・ストラテジー」があります。この概要と事例をまとめると、下のとおりです。

意味ケイパビリティを生かした競争戦略
事例①Amazon(ザッポス買収でCSを強化)
事例②ミスミ(地味な調達能力の高さが流通革命に)

それぞれ詳しく説明していきます。

意味:ケイパビリティを生かした競争戦略

ストラテジーとは戦略の意味で、ベースドは「○○をベースにした」という意味です。つまり、ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーは、ケイパビリティをベースにした戦略となります。

逆にポジショニングをベースにする戦略は、いわゆる「差別化戦略」です。こちらが「ライバルとの争い」を意識しているのに対し、ケイパビリティ・ベースド・ストラテジーは「内部の改善」を意識する割合が高くなります。

事例①:Amazon(ザッポス買収でCSを強化)

ザッポス出典:amazon.com

Amazonはケイパビリティを高めるために、積極的に他社を買収します。そして、その買収の中でも最も有名なのが、ザッポスの買収です。

ザッポスを買収した2009年当時、Amazonの弱点はカスタマーサービスでした。この部分を強化して総合的なケイパビリティを高めるためにザッポスを買収したのです。

ケイパビリティはこのように「外部から取り込む」こともできます。ハーバード・ビジネスレビューでも、このザッポス買収の事例が下のように説明されています。

企業は新しいケイパビリティを自らつくることもできますが、外部から取り込むこともできるのです。
自社独自のケイパビリティを改善し、需要を創造する

Amazonの買収は英断でしたが、この事例はケイパビリティを「お金で買う」ことの限界も示しています。理由は、ザッポスを買収したものの、Amazonがザッポスと同じカスタマーサービスを提供できているわけではないためです。

CEOのトニー・シェイがいるからできるサービス

ザッポスのサービスのレベルの高さは、ほとんど「異次元」というべきものです。フォーブスの記事でも下のように「トニー・シェイがいるからできるサービス」と指摘しています。

それは、偉ぶらない、地味な台湾系アメリカ人のCEOトニー・シェイが、この会社の企業文化絶対主義に自ら強くこだわり、これについては社員のダントツの信頼を得ているからということではないだろうか。

アマゾンが買収した会社の多くは経営陣が交替するが、このCEOを変えないのは、まさにこのトニー・シェイがトップにいて初めて成り立っているビジネスモデルだと、アマゾンが考えているからに違いない。だから他社はこのモデルを参考にすることはあっても真似ることはできず、そして、それはとりも直さず、将来に向かってのザッポス自身の課題でもあるのだ。

独自の社風で20周年、世界に類を見ないザッポスという会社

「参考にはできても真似はできない」というのが、多くの経営者がザッポスに対して抱く思いでしょう。そして「ザッポス自身の課題」というのは「トニー・シェイがいなくなった後はどうするのか」ということです。

たとえば流通網など「目に見えるケイパビリティ」は、お金で買収できます。しかし、ザッポスのマンパワーのような「目に見えないケイパビリティ」は、800億円という巨額の資金で買収しても、完全に取り込むことはできなかったのです。

(もちろん部分的に取り込み、Amazonのカスタマーサービスが進化したところは確実にあるといえます)

事例②:ミスミ(地味な調達能力の高さが流通革命に)

ミスミ出典:MiSuMi-VONA

イノベーションというと「何かを発明する」イメージがあるでしょう。しかし、ザッポスの「徹底した顧客重視」のように「当たり前のことを徹底する」ことがイノベーションになる例は多くあります。

流通業界でミスミが起こしたイノベーションも同じです。ミスミは「調達」という一見地味な仕事を極め、流通に革命を起こしました。

単価5円のネジを1本から届けるサービス

ミスミは「企業向けの部品・消耗品の通販」を行う会社です。同社は下のような「他社が扱いたがらない商品」を積極的に扱いました。

  • 単価が安いもの
  • 種類が多いもの
  • 量がまとまらないもの

「単価5円のネジを1本から届ける」というのは、それだけを見れば大きな赤字になります。しかし、必要な部品を必要な量だけ調達できるというのは、企業にとって非常にありがたいサービスです。

このサービスを継続すれば、企業にとってミスミは「なくてはならない会社」になります。その状態を実現するまで財政的に持ちこたえることがカギです(大抵の会社はサービスのし過ぎで倒れてしまうため)。

ミスミが倒れずにブランドを確立できたのは、高い調達能力があったためです。その能力を実現したものは、大きな一つの発明ではなく、日々の小さな創意工夫の積み重ねだったといえるでしょう。

参考『ダイヤモンド社』◎第1部のはじめに[企業哲学としてのオペレーション]

まとめ:ケイパビリティ・7つの要点

アパレルスタッフの女性

最後に今回の要点を箇条書きでまとめます。

  • ケイパビリティとは「企業の総合力」である
  • 差別化のようなアイディア勝負ではない、本当の実力
  • 実現に時間がかかるが崩れにくく、模倣されにくい
  • 松下幸之助のダム理論のように、しばしば「理想論」とされる
  • 理想を体現し、利益を出しているザッポスのような会社もある
  • ケイパビリティはVRIOフレームワークで評価する
  • ケイパビリティは経営の45%を左右する(40%は運)

上記の要点を覚えておくと「ケイパビリティって何ですか?」と聞かれたときに、大体の説明をできるでしょう。そして、ケイパビリティは口で説明するだけではなく「自分が実践して初めて意味がある」ものです。

記事中で紹介したトニー・シェイや長谷部選手は偉大ですが、彼らですら世界の大部分の人には知られていません。人に知られているかどうかは関係なく「自分のケイパビリティ」を追求し、少しずつ実現したいものですね。

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